何らかの事情によって会社を退職しても、すぐに次の就業機会が見つかるとは限りません。
求職活動をするにしても通常は一定の期間が必要であり、次の就業機会が見つかるまでは、収入のない状態で生活していかなければならないケースもあるでしょう。
そのような場合に備えて用意されているのが、失業手当(失業保険)という制度です。
特に、倒産や解雇など労働者個人とは関係のない事情や、やむを得ない理由によって離職せざるをえなくなったような場合には、とりわけ保護の必要性が高いといえるでしょう。
そうした事情で離職することになった労働者は、「特定受給資格者」や「特定理由離職者」と呼ばれ、これに該当すると、失業手当の面でより手厚い保護を受けることが可能となっています。
特定受給資格者・特定理由離職者とは何か、それぞれ何が違うのか、そして失業手当の受給に関する要件や給付内容にはどのような影響があるのでしょうか。
今回は、「特定受給資格者」と「特定理由離職者」という概念について、失業手当との関係に注目しながら、解説していきます。
特定受給資格者・特定理由離職者とは?
特定受給資格者および特定理由離職者は、厚生労働省によって、以下のように定義されています。
特定受給資格者とは、「倒産・解雇等の理由により再就職の準備をする時間的余裕がなく離職を余儀なくされた者」のことをいいます。
特定理由離職者とは、「特定受給資格者以外の者であって、期間の定めのある労働契約が更新されなかったことその他やむを得ない理由により離職した者」のことをいいます。
参考:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省・都道府県労働局・公共職業安定所(ハローワーク)
特定受給資格者の範囲と判断基準
特定受給資格者となるのは、もっぱら会社の責任で退職となったと評価される場合です。
具体的には、「『倒産』等により離職した者」、「『解雇』等により離職した者」が該当します。
より詳細な範囲と判断基準については、厚生労働省などの発表による参考資料をご確認ください。
参考:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省・都道府県労働局・公共職業安定所(ハローワーク)
特定理由離職者の範囲と判断基準
特定理由離職者となるのは、「有期労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、当該更新についての合意が成立するに至らなかった場合に限る。)」という、いわゆる「雇止め」の場合と、「正当な理由のある自己都合により離職した者」の場合です。
より詳細な範囲と判断基準については、厚生労働省などの発表による参考資料をご確認ください。
参考:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省・都道府県労働局・公共職業安定所(ハローワーク)
失業手当との関係は?
特定受給資格者および、特定理由離職者の一部は、失業手当の受給資格要件や給付日数などの面で、給付の内容が手厚くなります。
(1)受給資格
失業手当の給付を受けるためには、特定受給資格者、特定理由離職者については、離職の日以前1年間に6ヶ月以上の被保険者期間があることが必要です。
特定受給資格者や特定理由離職者にあたらない一般の離職の場合は、離職の日以前2年間に12ヶ月以上の被保険者期間があることが必要とされますので、特定受給資格者、特定理由離職者は、失業手当の受給資格要件が緩和されていることになります。
(2)所定給付日数
労働契約期間の満了や自己都合退職といった一般的な離職の場合、失業手当の所定給付日数は90〜150日(被保険者期間による)となっているのに対し、特定受給資格者と一部の特定理由離職者は年齢によって90〜330日となっており、一般的な離職の場合に比べて日数の上限が拡大されているほか、より長い期間にわたって給付を受けることができるようになっています。
「一部の特定理由離職者」という点ですが、特定理由離職者の中で、特定受給資格者以外で期間の定めがある労働契約が更新されずに離職した者については、受給資格に係る離職の日が2009年3月31日~2022年3月31日までの間であれば、所定給付日数について特定受給資格者と同様の扱いがなされるということになっています。
※特定受給資格者および一部の特定理由離職者と、それ以外の離職者(就職困難者除く)の給付日数表
区分 | 被保険者であった期間 | ||||
1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | – |
30歳以上35歳未満 | 120日 (90日(※補足2)) | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上45歳未満 | 150日 (90日(※補足2)) | 240日 | 270日 | ||
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
※補足2 受給資格に係る離職日が2017年3月31日以前の場合の日数
参考:基本手当の所定給付日数(1.特定受給資格者及び一部の特定理由離職者|ハローワークインタ ーネットサービス
(3)給付制限期間
一般的な自己都合退職等の場合は、離職票をハローワークに提出してから、7日間の待機期間及びそれに加えて給付制限期間(2020年9月30日までに離職した場合は3ヶ月、2020年10月1日以降に離職した場合は5年間のうち2回までは2ヶ月)を経て、失業手当の支給が開始されます。
参考:「給付制限期間」が2ヶ月に短縮されます~令和2年10月1日から適用~|厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク
一方で、特定受給資格者及び特定理由離職者に該当する場合は、給付制限期間がなく、待機期間7日間の翌日から給付が開始されることになります。
保護の必要性がより高いことから、上記の二者に該当する場合には迅速な給付ができるようになっています。
不正受給と虚偽記載について
離職票への虚偽記載は不正行為となります。
不正行為によって失業手当を受けたり、また受けようとしたりした場合には、以後失業手当の給付を受けることができなくなるほか、不正に受給した金額の返還とともに、その2倍に相当する額以下の金額の納付を命ぜられ(3倍返し)、場合によっては詐欺罪等で処罰される可能性まであります。
事業主が作成した離職票の記載が事実と違う場合も、その事業主の不正行為とみなされます。
【まとめ】失業手当の給付については公的機関にご相談ください
今回の記事のまとめは以下のとおりです。
- 「倒産や解雇等の理由により再就職の準備をする時間的余裕がなく離職を余儀なくされた者」を特定受給資格者といい、「特定受給資格者以外の者で、期間の定めのある労働契約が更新されなかったことその他やむを得ない理由により離職した者」を特定理由離職者といいます。
- 特定受給資格者や特定理由離職者の範囲と判断基準については、厚生労働省の定めた詳細な規定が公表されています。
- 特定受給資格者や特定理由離職者に該当すると、会社を退職した際に給付される失業手当の受給資格要件が緩和されたり、給付される期間が長くなったり、給付制限期間がなく退職後すみやかに給付を受けることができるようになるなど、給付の内容が手厚くなる可能性があります。
- 虚偽の申告など不正行為によって失業手当の給付を受け、又は受けようとした場合には、以後給付を受けられなくなるだけでなく、不正に受給した金額に加えてその2倍の金額の納付を命じられ、場合によっては詐欺罪等で処罰される可能性もあります。
ご自身が失業手当の給付についてどのようなケースに該当するか不安な方は、ご自身の住所地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)や、都道府県労働局などの公的機関にご相談ください。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。