未払い残業代を会社に請求するにあたっては、さまざまな準備が必要になってきます。
まずは弁護士を含む専門家などに相談し、それらのアドバイスに基づいて数多くの証拠を集めて、未払い残業代の金額を計算することになります。
そうして、いざ会社に正面から残業代を請求するとなった場合に使用されるのが、内容証明郵便というものです。
内容証明郵便は、その名のとおり、送付した文書の内容など一定の事実を証明することができるものであるため、後になって訴訟に発展する可能性があるという場合には、証拠を残しておくという意味で重要な効果を発揮します。
今回は、未払いの残業代を請求するケースを念頭に置いて、内容証明郵便の概要や、その適切な使用方法・費用等について、解説していきます。
内容証明郵便とは?
内容証明とは、送付した文書について、「送付日時」、「文書内容」、「送付者」、「文書の受け取り手」を日本郵便株式会社が証明してくれるサービスです。
ただし、内容証明郵便では「配達したという事実」は証明されません。
そのため、配達したという事実もあわせて証明するためには、配達証明付きの内容証明郵便を利用することになります。
未払い残業代請求を内容証明郵便で行うメリット
それでは、未払い残業代請求を内容証明郵便で行うメリットについて解説していきましょう。
(1)消滅時効の完成を6ヶ月間猶予できる
未払いの残業代があっても、それをいつまでも請求せずに放置しておけば、やがて残業代請求権が時効を迎えてしまい、もはや請求することができなくなってしまいます。
内容証明郵便で残業代を請求すれば、催告(相手方に対して一定の行為を請求すること)があったことになり、残業代請求権の消滅時効完成を6ヶ月間阻むことができます。
特に時効が迫っている場合には、早めに内容証明郵便による請求をしておいた方が良いでしょう。
1項 催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2項 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
引用:民法150条(催告による時効の完成猶予)
残業代請求権の時効期間は、2020年3月末日までに支払期日が到来した残業代は「請求できる時期が来てから2年間」、2020年4月1日以降に支払期日が到来した残業代は「請求できる時期が来てから3年間」とされています。
法改正直後のため時効期間は当面の間3年間とされていますが、将来的に5年に延長予定となっています。
(2)書面の内容・送付した事実を証明できる
未払いの残業代の請求は口頭で行うこともできますが、内容証明郵便を使用し書面で送付することで「いつ」、「会社に対し誰が請求したか」を証明することができます。
(3)裁判で証拠となる
内容証明郵便で残業代の請求を行っておけば、残業代の支払いについて裁判となった際に、残業代の請求を行ったことを示す証拠となります。
口頭での請求では、企業側が「そもそも請求されていない」と主張してきた際に、証拠を提示できずに不利になってしまう可能性があります。
内容証明郵便の内容・書き方・費用について
ここでは、内容証明郵便の内容・書き方・費用について解説します。
(1)内容証明郵便の記載内容
未払い残業代を請求する場合、内容証明郵便の記載内容に明確なルールがあるわけではありませんが、一般的には、以下の内容を記載します。
- 文書のタイトル
- 入社日
- 未払いの残業代を請求する旨
- いつの残業代の請求なのか
- 未払い残業代の請求金額
- 未払い残業代の支払い方法(振込先の銀行名・口座番号)
- 支払い期限
- 支払われない場合は法的措置をとる旨
- 日付
- 請求する相手となる会社の住所・代表者の氏名
- 請求者の住所・氏名
(2)内容証明郵便は文字数・行数に規定がある
内容証明郵便の謄本には、文字数・行数に細かい規定があります。
縦書きの場合は、「1行20字以内、1枚26行以内」とされ、
横書きの場合は、「1行20字以内、1枚26行以内」、「1行13字以内、1枚40行以内」、「1行26字以内、1枚20行以内」のいずれかとされています。
記号を1文字使用した場合には、それを全角1文字として計算します(例:%は1文字、kmは2文字、①は2文字、⑩は3文字)。
括弧()は、()で1文字とし、最初の括弧のある行の文字数としてカウントします。
文頭にくる(1)や①が順序を示す場合は、(1)または①で1文字とします。
用紙が2枚以上になる場合は、綴り目に契印を押します。
郵便局で手続きをする際には、内容について訂正が必要となる場合がありますので、内容証明郵便に使用した印鑑を訂正印用に持参するとよいでしょう。
(3)内容証明郵便を送付する際の費用
内容証明郵便を送付する際の主な費用は、以下のとおりです。
より詳しくは、日本郵便のウェブサイトでご確認ください。
- 郵便料(定型郵便物):25g以内は84円、50g以内は94円
- 一般書留料:一律435円
- 内容証明郵便料:440円(2枚目以降は260円増し)
- 配達証明料:320円
遅延損害金も請求する場合
未払い残業代を請求する際には、あわせて遅延損害金も請求することができます。
遅延損害金の利率は、在職者であれば2020年3月31日までの残業代につき商事法定利息として年利6%(商法第514条。民法改正につき現在は削除)、2020年4月1日以降の残業代については年利3%(民法第404条。ただし3年ごとに変動)となります。
退職後は、賃金の支払の確保等に関する法律第6条に基づいて、14.6%までの年利を請求することができます。
未払い残業代の請求書面には、遅延損害金も含めた金額であることを明記することになります。
また、未払い残業代請求の書面に記載する金額は、正確に計算する必要があります。
遅延損害金の計算に不安がある場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
残業代請求の内容証明郵便が無視された場合は?
残業代を請求する旨の内容証明郵便を送っても、無視されてしまった場合の対処法について解説します。
(1)労働基準監督署に申告する
残業代の未払いは労働基準法違反にあたるため、労働基準監督署に相談することができます。
労働基準監督署は、労働基準法などの法律に基づいて、労働条件や安全衛生の指導、労災保険の給付などを行う、全国に設置されている厚生労働省の第一線機関です。
個々の労働トラブルに関する相談も受け付けており、相談者の事情に応じて、必要な調査や行政指導を会社に対して行うことができます。
労働基準監督署の指導に従わず、悪質な残業代の未払いが続く場合は、労働基準法違反として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となる可能性があります(労働基準法第119条)。
参考:労働基準監督署の役割|厚生労働省
参考:全国労働基準監督署の所在案内|厚生労働省
(2)労働審判を申立てる
残業代の請求をしても会社が支払いに応じない場合には、労働審判で解決することも検討することになります。
労働審判は、労働者と事業主との間で起きた労働関係のトラブルを、労働審判官(裁判官)1名・労働審判員2名からなる労働審判委員会が審理・判断することにより、迅速に解決するための手続です。
原則として3回以内の期日で審理を終えることになっており、多くの事件が3ヶ月以内に終結しています。
労働審判では、まず調停という話し合いによる合意の成立が試みられますが、合意ができなかった場合には、労働審判委員会が諸般の事情を総合的に判断して審判を下します。
審判の結果に対して不服のある当事者が異議を申立てた場合には、審判は効力を失い、訴訟に移行することになります。
裁判所で労働審判を申立てる場合には、実際に行動を起こす前に弁護士に相談すると、手続きをスムーズに行うことができるでしょう。
参考:労働審判手続|裁判所 – Courts in Japan
(3)訴訟を起こす
会社がどうしても残業代の支払い請求に応じない場合は、訴訟を起こすことも検討することになります。
訴訟を個人で起こすことは難しく、適切な証拠を集めて十分な主張・立証を行うなどの手続きをスムーズに進めるためにも、弁護士に対応を依頼するのが良いでしょう。
【まとめ】未払いの残業代は、配達証明付きの内容証明郵便で請求しましょう
今回の記事のまとめは以下のとおりです。
- 内容証明郵便とは、文書を送付するにあたって、送付日時、文書内容、文書の送付者、文書の受取人を、日本郵便が証明してくれるサービスです。
- 未払い残業代を会社に請求する場合には、配達証明付きの内容証明郵便を利用するのがよいでしょう。時効の完成を6ヶ月間猶予できる、書面の内容や送付した事実を証明できる、裁判で証拠となるといったメリットがあります。
- 内容証明郵便の記載内容に明確なルールはありませんが、文字数・行数などの形式面で細かい規定があります。
- 未払い残業代とあわせて遅延損害金を請求する場合は、残業代が支払われるべき時期や、在職中か退職後かなどの事情に応じて、適用される利率が変わりますので注意が必要です。
- 会社が未払い残業代の請求に応じない場合は、労働基準監督署への相談や、労働審判を申立てること、訴訟を提起することも検討することになります。労働審判や訴訟を進めるにあたっては、弁護士に対応を依頼するとスムーズです。
会社に対して請求するための内容証明郵便の送り方をはじめとして、未払いの残業代請求でお悩みの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。